「オール電化は電気代が安い!」
とは以前にはよく聞いたキャッチコピーだが、原発事故後に電気料金の値上げが行われてからはそのような風潮もだいぶ薄れてきている。
とはいえいまだに不動産屋などでオール電化物件を物色していると、
「オール電化なので電気代が安くなりますよ!」
と自信たっぷりにすすめられることもしばしばだ。
私は実際にオール電化の賃貸物件に住んでいるのだが、しかし正直電気代は安くはならなかった。
むしろ冬場はかなり高い。
冬場以外は少し高いか同程度といったところだが、同程度ということはガスの基本料金が発生していないのにも関わらず、同じくらいの光熱費が発生しているということになる。
もともと部屋に設置されているのがエコキュートではなく電気温水器であることは知っていたのであまり期待はしていなかったが、しかし予想以上に期待外れだった。
「Yah●●知恵袋」などを見てみると同じような声を多く見かけるので、どうも私だけ電気代が高いというわけでもないようだ。
もちろん生活スタイルなどの利用状況が違えば電気代も変わってくるが、ではどのような条件だとオール電化を選択しても電気代が安くならないのだろうか?
オール電化で電気代が安くならない理由とは?
「オール電化の物件を選択したら電気代が高くなってしまった!」
というあなた。
思わぬ電気代を請求されて
「世間では安いと言われているのになぜっ?!」
「電気料金が上がったからなのか?」
「それとも気が付かないうちに電気を使い過ぎてしまっていた??」
と、色々と考えを巡らせているかもしれないが、もしかすると値上げや電気使用量などといった要因以前に、もっと根本的な原因があるのかもしれない。
設置されているのはエコキュートか?電気温水器か?
オール電化住宅の特徴といえば、家中のエネルギー源が全て電気でありガス機器が存在しないこと。
電気・ガス併用住宅のガス使用量についてだが、その使用エネルギーの大半は給湯器がお湯を沸かす際に使用されている。
よってオール電化を選択したことによって電気代が上がったというのであれば、その原因のひとつは給湯器にあるのではないかと思われる。
ところで電気を使用する給湯器といっても何種類かの違いがある。
賃貸物件で導入されている給湯器ならば、エコキュートか電気温水器のどちらかであると思われる。
ではエコキュートと電気温水器にはどのような違いがあるのだろうか?
下記の表に大まかな特徴を書いてみる。
エコキュート | 電気温水器 | |
装置価格 | 高い (オープン価格) | 安い (オープン価格) |
使用電力量 | 少ない (電気温水器の約1/3) | 多い |
騒音 | 有り | 無し |
寿命 | 約10~15年 | 約15~20年 |
まず価格についてだが、こちらはオープン価格なのではっきりとは言えないが、電気温水器に対してエコキュートは大体20~30万円ほど高い。
また設置費や修理費に関しても、構造の複雑なエコキュートのほうが高くつく。
対して、給湯時にかかる電力量についてはエコキュートのほうがかなり小さくなる。
その電気使用量は電気給湯器と比較して約1/3と言われている。
寿命については電気温水器のほうが長く、メンテナンスを丁寧に行えば20年以上使用できるとも言われている。
そしてエコキュートについてだけ言えることなのだが、「騒音」の問題がある。
エコキュートはヒートポンプユニットを使って空気を圧縮し熱を取り出して水を温めるのだが、その際の作動音が低周波音として近隣住民とのトラブルの原因になることもあるらしい。
これらの特徴を見てみると一個人としてはどちらを購入すべきか迷うところだが、賃貸住宅のオーナーの立場であればおそらく電気温水器を導入すると思われる。
電気代を払う立場でないのなら、設備費用や耐用年数の面から見れば間違いなく電気温水器のほうがコストパフォーマンスがいい。
また騒音トラブルの可能性のあるエコキュートをあえて設置するメリットは小さい。
もしもオール電化の賃貸物件について悩んでいるのなら、部屋に設置されているのがエコキュートなのか電気温水器なのかを不動産屋に確認しておくほうがいい。
もしも電気温水器であるのならば、あまり電気代が安くなることには期待しないほうがいいかもしれない。
実際に電気温水器を使用しての冬場の電気使用量の増え方を見てみると、電気で水を温めるのには相当な電力が必要なようだ。
最適な電気料金メニューは選択できているのか?
オール電化が安いと言われているのには、深夜の安い電気料金を利用できるという理由もある。
従って深夜電力割安メニューを選択していなければ当然電気代は安くはならない。
各電力会社には様々な電気料金メニューが存在するのだが、どの会社にもおそらく夜間の電気料金がお得になるプランが用意されているだろう。
例えば関西電力には過去に「はぴeプラン」というオール電化の家庭にお得な料金メニューが存在していた。
深夜に安い料金設定がされていることに加えて、その月の利用料金からさらに10%引きが適用されるというお得なメニューである。(現在は新規加入が廃止されている)
ただ、このメニューは夕方以降に電気使用量が増加する大所帯の世帯に適したメニューであり、単身者世帯には不向きなプランである。
単身者であれば他の深夜料金が設定されているメニューを選択するほうが、おそらく電気代は安くなるだろう。
よその世帯でお得になるメニューが自分の生活にも適しているとは限らないので、安易な選択はせずに慎重に自分に合ったメニューを探すのがよい。
使用する設備や自分の生活スタイルに適した電気料金メニューを選択しなければ、オール電化を選択したことのメリットは十分に活かせないのである。
各電力会社のシミュレーションシステムや比較サイトなどを利用して、普段の自分の生活に適したプランを見つけるのがよいだろう。
そもそもなぜ「オール電化は安い」と言われるのか
そもそも世間ではなぜ「オール電化は安い」という風潮があるのだろうか。
それは以前には今よりももっと安い深夜電気料金が設定されていたことが大きな理由のひとつだろう。
電力会社がそれまでは捨てるしかなかった深夜の電気を安い価格で提供し、その割安メニューを選択した家庭が省エネ家電を利用することによって光熱費を安く抑えることが実現できたのである。
余っていた電力を有効活用できるということで、国もそのような世間の省エネ化の流れを支援していた。
実際にエコキュートなどのエコ家電には国からの補助金が支給されていた過去もあり、それによる利用者の導入コストの削減も「オール電化はお得」という認識を広めた理由のひとつかもしれない。
ところで「捨てるしかない深夜の電力」とは一体何のことなのか?
それは以前まで日本の電力の大半が原子力発電でまかなわれていたことや、日本のインフラ設備が整っていることなどが理由で発生していた余剰電力のことである。
下の図は原発事故以前の1日の電力供給の状況である。
注:かなり大まかなイメージ図です。横軸は1日の時間軸。
電気の使用量は、多くの人々が活動する昼の時間帯に大きく増加する。
インフラがあまり整備されていない国などでは、電力使用量が増加し過ぎると停電が起きたりするのだが、日本の場合はそのようなことが起こらないようにあらかじめ余裕を見た電力が発電されている。
原子力発電では火力・水力などのように必要な時にだけ供給を増減させるといったことができないために、使用電力のピーク時を見越した一定の電力量が電力会社から常に発電され続けているといった状態なのである。
したがって深夜の利用者の少ない時間帯には電力が余ってしまい、使われなかった電気は捨てられるのである。
このような状況を改善しようと国は深夜の余剰電力を使用するエコキュートの普及を支援し、また電力会社も深夜の安い電力を提供することによってガス会社などから新たな顧客を獲得していった。
しかし原発事故以降は各電力会社の電気料金の値上げが相次ぎ、特に深夜料金については値上げ率が大きく、オール電化の家庭には大きな影響を与えた。
そしてまた最近では他にも、オール電化世帯だけを優遇する「オール電化割引」を廃止しようとする動きも出てきている。
もしも「オール電化割引」が廃止され、以前よりも誰しもが深夜の割安料金を利用する自由度が高くなれば、日中ピーク時の使用電力量は減るかもしれない。
しかしそれに伴って深夜の余剰電力量が不足してくる可能性もあるので、もしそうなれば電力会社にとってはメリットは無くなってしまい、引き続き深夜料金の値上げが続くかもしれない。
そのような状況も踏まえて、今後はあまり「オール電化は安い」という認識は持たないほうがいいのかもしれない。
「オール電化は安い」は鵜呑みにしないように…
しかし話を最初に戻すと、不動産屋はなぜ「オール電化は安い」と口を揃えて言うのだろうか。
その説明にはおそらく特に根拠は無いのだろう。
単純にただの営業トークである。
彼ら自身もなぜ安いのかをよく分かっていないのだ。
不動産屋を利用したことのある人なら分かると思うが、彼らは契約に漕ぎつけるためなら法に触れない程度の適当な話ならいくらでもする。
少し突っ込んで給湯器の種類や電気料金メニューについて聞いてみると、
「はは… 僕たちも実はあまり詳しくないんですぅ…。」
と苦笑いしながら言ったりする。
今はネットを開くと様々な情報が手に入れられる時代なので、あまり営業マンのトークは信用せずに自分で必要なことを調べたほうがよさそうだ。
相談を投稿すれば生の声を拾うことも可能なので、そういったアプローチで利用者から実際の使用状況について聞いてみるのもよいだろう。