真夏の怪談【誤ってゴキブリをレンジでチンしちゃった話】不慮の事故

あれは真夏の出来事だった。

その日は自分以外の家族はみんな外出していた。
私は遅寝をした後に朝食を摂るために台所へと降りて行った。

―すると、電子レンジの扉が開いている…

 

これは怪談でもなんでもなくて、母親によって敷かれた絶対ルールによるものだ。
うちの母親は「レンジを使った直後に扉を閉めると内側に結露ができる!」と、普段から家族に対して度々と注意をしていた。

母親の小言がうるさいので、そのうち電子レンジの扉は四六時中開けっ放しにされることとなった。

とまあそんなわけで、私はいつも通りに開けっ放しにされた電子レンジの中に、朝食用の食パンを放り込んだ。
トーストボタンをポチっとな。

 

自分以外に誰もいない家の中で、電子レンジの稼働音だけが鳴り響く。

ヴゥーーーーー…ン

ヴゥーーーーー…ン

ヴゥーーーーー…ン…

ターンテーブルに乗ってクルクルと回る食パンを眺めながら、「扉を開けたままだとホコリとか入るじゃん…」とぼんやりと考える。

 

やがて「ピピピピッ」と、加熱終了の電子音が鳴る。

私はいそいそと焼きあがった食パンをお皿に取り出す。

 

と、その時、私は電子レンジの奥に何かがあることに気が付く。

なんだ?パンくずかな?
それにしては大きい。

(も~ホコリじゃないよね?)
ブツブツと文句を言いながら、すでに真っ黒に焦げてしまっている「何か」をつまみ出そうと手を伸ばす。

 

「!!!!!!!!!!」

手を触れる直前に私はその「何か」の正体に気が付いて、そして次の瞬間には後ろに飛びのいていた。

人間の反射神経ってすごい。
普段ならこんなに素早く動けない。
たぶんリミッターを外された人間はかなり強いと思う。

 

「何か」の正体は、こんがりとトーストされたゴキブリだった。

 

おそらくタヒんでたんだろうけど、詳しく調べたくはなかったので細かいことはよく分からない。
でも手を突っ込んでもじっと動かなかったので、まあタヒんでたんでしょう。

その後の私は心臓をバクバクさせながら、トーストされた食パンをゴミ箱に投げ入れ、手を3回くらい洗ってから自分の部屋に駆け込み、その後は布団に包まって念仏を唱えながら過ごした。

 

翌朝、階下へ降りていき、恐る恐る台所にある電子レンジに目をやると、扉が閉まっている。
使用中じゃないのに。

そろりそろりと電子レンジに近づき、身構えながら扉を開けてみると―…

中はきれいに掃除されていた。
おそらく母親がやったのだろう。

母親は何も言わなかった。
私も何も聞かなかった。

 

そのゴキブリ事件以降は、使用後に電子レンジの扉を閉めても、母親は何も言わなくなった。
ゴキブリの件について母親が何も触れてこないのは、親切心からなのか、それとも罪悪感からなのか―。

 

そして、この最悪の経験から得た私の知識としては、

ゴキブリはレンチンしたら死ぬ

ってこと。

(正確にはオーブンコースで加熱したらこんがりと焼ける。)

 

でも、ゴキブリをわざわざレンジに入れてチンしてコロス人なんていないと思うから、これって本当に無駄な知識だよね?

この知識で誰か得をする人がいるのかな?いないよね?
でも知見を得られてスッキリとはするのかな?

そしてこれを書いている自分もどうかしてるけど、こんな記事を最後まで読んでる人も相当だよね。

でも完読してくれてありがとう。
じゃあね、アデュー。