シティホテルで働いていた元従業員の書くあれこれ話

以前とあるシティホテルでバイトをしていたことがある。

シティホテルとはいえオフシーズンなら格安プランも出ているので、出張中のサラリーマンなどが利用することも珍しくない。
もちろん宿泊料金の高いオンシーズンには、普段ホテルを利用しないような客も利用するので、たくさんの宿泊客で賑わう。

要するに、通年では色んなタイプの客が泊まるということだ。

私は客室担当係としてホテルに従事していたのだが、客と接するのは主に客室、もしくは客室フロア内でだった。

そんな仕事中には赤の他人のプライベートな一面を垣間見ることになり、客が羽目を外している姿など、なかなか興味深い場面に遭遇することもあった。

今回はそんなホテルバイト時代の仕事中のあれこれ話を書いてみようと思う。

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ホテルでのあれこれ話

客室のドアの開錠トラブル

★ドアの開錠方法

最近のホテルの大半では、カードタイプのキーを導入している。
しかし意外と若い人でも開錠方法を知らない人が多く、よくドア前で四苦八苦している客に呼び出されることがある。
開け方は、ドア横のキー差し込み口にカードキーを差し込み、その後引き抜くだけ。
くれぐれもカードキーを差しっぱなしにしないように注意しよう。

 

★インロックされた場合

ルームキーを部屋の中に置いたままドアのオートロック機能によって締め出される場合。これもよくある。
ドア前で呼び止められて「この部屋を開けてほしい」と頼まれることがあるのだが、その場で身分証の提示をするなどの本人確認ができなければドアを開錠することは当然できない。
よく「それぐらいいいじゃん…」という反応を取られるのだが、無理なものは無理。
ホテル内には様々な人間が出入りしており、従業員・宿泊客以外の人間が紛れ込んでいる可能性も無くは無い。っていうか実際にそういうことはある。
なのでその点についてはご理解願いたいところ。
キーの再発行についてはフロントデスクにてご依頼願いたい。

 

★自分の部屋を見失う客

ホテルの廊下で自分の部屋が分からない客に呼び止められることはよくある。
「自分の部屋番号を覚えてない」と…。
ホテルの部屋はどれも似たような外観だ。違うのはドアに記されている部屋番号くらい。
たかが部屋番号なのだが、覚えてなくて困ったことになるのは自分なので、気を付けたほうがいい。
よくあるのが、ちょっと同じフロアにある自動販売機まで小銭だけ持って出かけて、帰りに自分の部屋が分からなくなるパターン。
「ここだと思うし、部屋の中見たら分かるし、ちょっと開けて?」と言われても当然無理だから。

特定の部屋の指定

★ベッドタイプ

ビジネスホテルにはシングルタイプの部屋が多いが、シティホテル(それもあまり新しくない)にはシングルやダブルのタイプの部屋は少ない。
なのでツイン以外の部屋の予約は、特にオンシーズンには難しいかもしれない。

 

★角部屋

角部屋は部屋の位置や窓からの見晴しの良さなどの点から、人気のある部屋タイプだ。
なので常連客からも人気があり、中にはその部屋に半ば住んでいるかのような客もいた。
ホテルとしてはオフシーズンにも泊まってくれる常連客は大事な太客なので、いつその人からの予約が入ってもいいように、他の部屋から予約を埋めていくという対応を取っていた。
いずれにしても角部屋はもともと部屋数が少ないので、「どうしても角部屋がいい!」というのであれば早めに予約を入れておいたほうがいい。

 

★特定の部屋番号

「○階の部屋がいい」とか、「○○の方角の部屋がいい」などは定番の要望なのだが、以前に一度、部屋番号それだけを指定してきた客がいた。
その人曰く「今日のラッキーナンバーなの!」だそうだ。
斬新なパターンだった。

 

★部屋の割り当てはその日のフロントの采配次第…

部屋の割り振りは予約受付デスクやフロントデスクの仕事なので、私自身は詳しいことは知らない。
しかしあくまで知っている範囲で言うと、常連客や何らかの要望を注文した客からまず部屋を固定していって、その他はチェックインした客の順からその日の状況に応じて適時部屋を割り振っていくという形になる。
なのでチェックインの際に部屋について何かしらの希望があり、柔軟な対応を取ってもらいたいのであれば、早めにチェックインしたほうが融通が利きやすいということだ。


客室に関するサービス

★存在しないサービスについて

タオルの追加、ポットのお湯の交換、お部屋の設備の説明などなど…。
客室担当係はお部屋に関することについての手配や管理を行っている。
従って、
「浴衣の帯の結び方を教えてほしい」
「携帯電話のアラームをセットしてほしい」
「ワイシャツのボタンを付けなおしてほしい」
などの提供サービス外の要望には、なかなか対応しかねる。
ホテルスタッフはあなたの母ではありませんので…

 

★ホテル周辺のお店のご案内

ごく稀にだが、特に海外の客から
「女の子と素敵なことができるお店はどこにありますか??!」
といった質問をされることがある。
当然返答しかねるし、周辺店舗の案内はせめてインフォメーションデスクにて聞いてほしい。

 

★有料テレビ

同じく海外の客から
「セクシーなテレビ番組が見たい!操作方法を教えて!」
といった問い合わせを受けることがある。
誠に残念なのだが、海外からの団体客については客室のテレビを一括操作して有料テレビを見れない設定にしていることがままある。
だから諦めてお国に帰ってから観賞してくださいませ。

バスルームの清掃

シティホテルなんて一見華やかな印象だけど、バブル崩壊後はそんな景気のいい業界ではないし、ましてや掃除のおばちゃんなんて普通のパートのおばちゃんだし、特に綺麗好きでもないおばちゃんだし、何なら早く仕事を切り上げて帰りたいおばちゃんだし、ホテルのバスルームの床や壁や備品が当然清潔なものだとは思わないほうがいいよ。
詳しいことは聞かないで。

色々な宿泊客

★女性グループの客

意外・かつショックだったのだが、部屋の使い方がダントツで一番汚かったのは女性グループの客だった。
特に若い女性客。ほぼ高確率で汚い。
とにかく部屋が細々と散らかっている。
飲みかけのカップ、封を切った化粧品パウチ、使用済みのコットン、何かの紙切れ、お菓子の空き袋…
そういったものがキャビネットやサイドテーブルの上、バスルームなどに散乱していた。

 

★男性グループの客

意外なのだが、男性グループ客の部屋はわりときれいに使われていた。
ただ若年層グループの客は部屋が散らかっている傾向が高かった。
女性グループの部屋の汚さとはまた違って、乱雑に散らかっているという感じ。
普段慣れないホテルに泊まるのが物珍しくて、部屋の中の引出しという引出し、備品という備品を取り出して見てみました、といった感じの散らかり方。

 

★修学旅行客

ホテルにとってのシーズン限定・恒例イベントの修学旅行生たち。
子供なので騒がしいし、絶対に一人は熱を出すし、大変と言えば大変なのだが、チェックイン・アウト時間と外出時間がきっちりと決まっているので、その点はすごく楽。
部屋がすごく汚そうなイメージだが、それについては滞在する学校によって明暗が分かれる。
いかに学校側からの指導が行き届いているかによって、部屋の使用状態が左右されるようだ。
「ハズレ」校に当たると、パワフルな散乱部屋と格闘する羽目になる。
チェックアウト後の部屋点検の際にシーツをめくると、中から食べかけのパンやおにぎりが転がり出てくることもあって、「犬小屋…?」と目が点になった。

 

★ビジネスマンの客

仕事の関係でホテルに宿泊する客については、総じて部屋の使用状態が綺麗だ。
中にはベッドすら使用していない人もいるので、ついつい「昨日はどこでお泊りに?仕事の付き合い?飲み歩き?それとも羽目を外してお楽しみ~??」と思わず詮索したくなる。

 

★外国人客

オーダーや問い合わせなどを受けて部屋へ伺うと、上半身裸の格好やパンツ一丁姿でドアを開ける人がけっこういる。もちろん男性客に限ってのことだが。
「外国人は温泉などで他人に裸を見られるのを恥ずかしがる」という話をよく聞くので、なぜホテルではパンツ一丁で平気で他人の前に出てこれるのかが不思議なのだが。
何の違いなのだろうか?とりあえずパンツ履いてればOKってことなのか?

 

★日本人よりも日本人らしい外国人客

日本語の流暢な外国人客には日本文化についても詳しい人が多い。
先ほど外国人客は平気でパンツ一丁姿を他人に見せると書いたが、しかし彼らについては部屋の備品の浴衣を一切の乱れなくピシッと着こなしていた。
そこらの日本人よりもはるかにピシッと着こなしていた。

 

★禁煙室で煙草を吸う客

たまに禁煙部屋で煙草を吸う客がいる。
喫煙室が満室だったのかもしれないが、我慢できないからといって禁煙部屋での喫煙はご遠慮願いたい。
こっそりとバスルームで吸う客もいるが、臭いでバレバレなので。
吸殻などの証拠がなければ何も言えないので、そんな時には安全面への配慮から部屋にとそっと灰皿を入れておくことで対応していた。
煙草の臭いの付いた禁煙部屋は臭いが抜けるまでは使用ができない。
オンシーズンなどには手痛い損失となる。
何より満室で次の予約が入っている場合でも、部屋が用意できなければホテル側の責任となってしまう。
損害賠償を請求したい。


客室の防音性

ホテルの客室の防音性はあまり高いとは言えない。
ドアの下に新聞を差し入れるための隙間が空いていることもあり、話し声などはけっこう外へと響く。
なので夜遅い時間に騒がれるのは当然他の客への迷惑となるし、恋人どうしの愛の囁きなんかも控えておいたほうがいいかしれん。聞こえてるし。

死人部屋

ラブホテルに限らず、ホテルでの心中は別に珍しいことではないらしい。

ブラックリスト

部屋の使い方が汚い客や言動に問題のある客などについては、当然記録に残してある。
ホテル業界に限ったことではないが、普段はライバル関係にある同業者間でも問題客の情報は共有している。
常習的に問題を起こす客については宿泊拒否の対象となる。
それでも何度も名前を変えては新たなホテルに泊まろうと画策する人もいるが、ブラックリスト客とばれた時点で
「○月○日、××という名前で△△ホテルに来館」
といった具合に、その都度記録が付けられることになる。
若気の至りで将来どこのホテルにも宿泊できなくなるようなことが無いようにお気を付けて。

チップ

★外国人旅行客のチップ

海外からの客は自分の国の習慣として、チェックアウトの際にチップを置いて行く人が多い。
その部屋に滞在した一人ひとりがそれぞれの枕元にチップを置いて行く、といった感じだ。
そして置かれているチップが税込みで支払われていることもわりとある。
つまり消費税が5%なら、100円玉と5円玉を1枚ずつを枕元に置いていくといった感じに。とても律儀だなと思った。
私が勤務していた当時は5%の税率だったが、8%へと引き上げられた現在は100円玉1枚と5円玉1枚と1円玉3枚を置いて行っているのだろうか?少し気になる。

 

★日本人旅行客のチップ

日本人客でもたまに枕元にチップを置いていってくれる人がいる。
わざわざポチ袋に入れてくれている人やお礼文を書いてくれる人もいて、とても嬉しい。

 

★チップの行き先

せっかくチップを置いてもらっても、職場の規定で客からの金品の受取りはできないことになっている。
それではチップは一体どうなってしまうのか?というと、部屋に残されたお金についてはまず上司へと報告する。
そして記録が付けられた後に一定期間はホテルで保管しておき、その後は他に出たお金とまとめて警察署へ届け出る。
その先の行方については私は何も知らない…
今これを読んでいる人の中には、ガッカリした気持ちになった人もいるかもしれない。
それについては本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ…
でも大丈夫!
そのうち仕事に慣れるにつれ、チップを見つけた時には黙ってそっとポケットに突っ込めるようになるので。
上司の顔にも「処理めんどくさい。黙ってもらっといて?」って書いてあるし…

滞在中のゴミ

★チェックアウト時のゴミ

滞在中に出たゴミについては、できればゴミ箱へ入れておいてほしい。
ゴミ箱に入らない分については、ゴミ箱の横へ置いてくれれば大丈夫。
明らかにゴミと分かるものなら無理にゴミ箱へ入れてくれなくてもいいんだけど、ゴミかどうか判別に困るものについては、いちいち遺留品処理に回さなければならないのでとても面倒なのだ。

 

律儀な清掃員の遺留品処理 1

清掃員の1人が、たまごボーロを一粒指につまんだ状態で
「これ床に落ちてたんですけど、遺留品に取っておいたほうがいいですかね…?」
と聞いてきたことがあった。
取っておいたほうがいいわけなどない。今すぐ捨てろ。

 

律儀な清掃員の遺留品処理 2

清掃員の1人が、使用後の1dayコンタクトレンズを持って来て
「これバスルームにあったんですけど、遺留品に取っておいたほうがいいですかね…?」
と聞いてきたことがあった。
取りに来る人いる?干からびて乾燥ワカメみたいになってるじゃん?今すぐ捨てろ。

 

★エロ本の忘れ物

エロ雑誌が部屋に残されていた時は、私は問答無用でそれをゴミに回していた。
嫌悪感からではなく、単純にそんなものを取りに戻る勇気のある客はいないだろうという判断からだ。
もしも取りに戻った客がいた時には、もちろん謝罪と弁償をさせて頂くつもりだった(いなかったけど)。

 

★外国の硬貨の忘れ物

おそらく日本に来る前の海外周遊の際に滞在したのであろう国の硬貨を部屋に置いていく外国人がいる。
自国に帰ったら使い道がないからゴミと一緒に置いていくんだろうけど、マジでやめてほしい。
日本の硬貨じゃないから警察署に届けるわけにもいかないし、両替しても手数料にそのまま消えていきそうな金額。
上司も処理がめんどくさいから、「記念にもらっておけば?」とか言い出す始末。
何の記念だ。いらん。いまだに手元にあるんだが。

東京バナナ

「東京ばな奈」は言わずと知れた東京の定番土産のひとつだ。
その人気にかこつけて、時々ホテルの部屋に果物のバナナにマジックで「東京」と書いた自作の「東京バナナ」を置いていく客がいる。
ホテルのスタッフはそのような工作物には見慣れているので、ウケるどころか一瞥した後に捨てられる。
あと1歩ひねれば話のネタにしてもらえる。

忘れ物

★一番多い忘れ物

毎日色んな種類の忘れ物が発生するが、その中でもダントツに多く、ほぼ100%の確率で客が取りに戻る、もしくは自宅へ発送するものがある。
それは携帯電話の充電器だ。
無造作に落ちていることもあるが、ベッド横のサイドテーブルの上に置かれていたり、部屋の隅のコンセントに差さったままになっている、ということが多い。
チェックアウトの際には今一度確認をしてから出発したほうがいい。

 

★慌てて忘れ物の問い合わせをしてくる客

チェックアウト後に間もなく忘れ物に関する電話がかかってくることがある。
電話の向こうで
「鞄の中に無い!どこにも無い!ホテルの部屋に忘れた!絶対そこに忘れた!」
と大騒ぎされることがあるのだが、そういった客に限って自分の鞄の中にちゃっかり持っていたりする。
とりあえず落ち着け。
慌ててホテルに電話をかける前に、深呼吸して冷静になってからもう一度鞄の中やポケットの中を探してくれ。だいたい見つかる。

 

★従業員を疑う客

チェックアウト後に財布を持っていないことに気が付いて部屋に取りに戻った客。
「部屋の中を探したけど無かった!ホテルの従業員が取ったんだと思う!!」
と大騒ぎしていたけど、結局従業員の誰にも心当たりが無いということで納得できないまま帰っていったが、その後警察署から落し物の連絡が来たらしい。
何でも、前日(チェックイン時間前)にホテル近辺に落ちていた財布を親切な人が拾って届けてくれたということ。
その財布そもそもホテルに持ち込んですらいないじゃん。マジでふざけんなよ。

 

★忘れ物の報告

忘れ物についてだが、ホテル側から客のほうへ積極的に連絡をするようなことはしていない。
忘れ物の内容や、各ホテルによっても規定に違いはあるかと思うが、私の勤務していたホテルでは基本的にそのような対応が取られていた。
「誰」と「誰」が「どのような関係で」ホテルに滞在しているのか、その事情は様々。
ホテルの部屋にどのような忘れ物があったのか、わざわざプライベートに触れるような電話は入れないほうがいい、というのが理由だった。
なかなか闇深い理由だね。

どうぞ素敵な滞在を

かなりざっくばらんに書いてみたけど、もちろん他にも書きたくても書けない話がたくさんある。
とりあえずは当たり障りのない範囲の話だけで。

ホテル滞在中は慣れないことや分からないこともあるかと思うが、その際にはどうぞホテルスタッフへと尋ねてほしい。
ただし常識の範囲内であることが望ましいが。

お客さまもホテルスタッフも同じ人間。
お互い気持ちよく関わることで、より良いホテルライフが過ごせるかもしれない。

どうぞ良質な滞在を楽しんでほしい。