これから株式投資を始めようと証券会社に口座を開設するとき、おそらく初心者の人の多くは「特定口座」の『源泉徴収あり』を選択して取り引きを始めようとするのではないだろうか?
「特定口座」は投資者の代わりに証券会社が損益計算と年間取引報告書を作成してくれる口座システムで、また『源泉徴収あり』を選べば自動的に納税を行ってくれるので確定申告の必要も無い。
機関投資家や専業投資家ではない個人の投資家にとっては、確定申告の手間を省いてくれる大変便利なサービスである。
…だがちょっと待った!!
確かに便利なシステムではあるが、しかし『源泉徴収あり』を選んだことによって、もしかすると本来は納める必要のない税金を払ってしまう可能性もあるのだ。
”源泉徴収あり”の落とし穴
払わなくてもよい税金を払ってしまう可能性とは一体どういうことなのか?
そもそも確定申告には、
給与等の収入金額が2,000万円以下である給与所得者は、1か所から給与等の支払を受けており、その給与について源泉徴収や年末調整が行われる場合において、給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であるときは、原則として確定申告を要しない。
という規定がある。
つまり年収が2000万円以下で給与所得以外の所得が20万円以下の場合は確定申告の必要が無いということだ。
ということは、例えば株式投資の利益を+20万円出した場合、『源泉徴収あり』を選択していると、支払う必要の無い20万円×約20%の税金が自動的に徴収されてしまうことになる。
それならば、株式投資による利益が20万円を超えなかった場合には確定申告を行い還付をしてもらえばいいのではないか?という発想になると思うが、しかし『源泉徴収あり』を選択している場合には納め過ぎた税金は返ってこない。
納めた税金はあくまでも自主的に納めたものであり、還付の対象にはならないそうなのだ。
そんなバカな。
少額投資や長期投資を行っていて年間の利益が20万円を超過しそうにない場合には、『源泉徴収なし』を選択しておくほうがよさそうだ。
また、既に売買取引を始めてしまっている場合、年度途中での口座変更は出来ないので、その場合は次の年明けまでに余裕を持って口座変更の手続きを済ませておくしかないようだ。
”源泉徴収なし”のメリット・デメリット
それでは『源泉徴収なし』を選択した場合のメリットとデメリットは具体的にどのようなことが挙げられるのか?
■利益が20万円以下の場合は確定申告が不要
もしもその年の投資利益を含む給与以外の所得が20万円以下の場合、確定申告が不要であり、利益に対する税金を納める必要も無い。
■複数の証券口座で投資を行っていた場合、利益と損益を相殺できる
もしもいずれかの口座で損益が生じた場合、『源泉徴収なし』を選択しておけば必要以上の税金を納めなくても済む可能性がある。
例えば、A証券口座で+60万円の利益、B証券口座で-30万円の損益が生じた場合、
『源泉徴収あり』の場合だと、
+60万円-(+60万円×20%の税金) + -30万円 = 18万円の利益
となる。
税金は自動的に徴収されるので税金が引かれたA口座の利益とB口座の損益の合算が最終的な利益となる。
『源泉徴収なし』の場合だと、
(+60万円)+(-30万円) - ((+60万円)+(-30万円))×20%の税金
= 24万円の利益
となる。
納税は確定申告にて年度末に1度に行うのでA口座の利益とB口座の損益の合算から税金を引く形となる。
■投資資金の運用効率がいい
もしも投資スタイルが長期投資や安定株投資などではなく短期的な売買差益を狙ったものであるのならば、運用資金は多ければ多い方が効率が良い。
『源泉徴収なし』を選択しておけば資金の回転率はより高くなる。
例えば100万円の資金でコンスタントに20%の利益を出していった場合、
『源泉徴収あり』の場合
100万円 × 120% - 利益に対する20%の税金 = 116万円
→ 116万円 × 120% - 利益に対する20%の税金 = 134万円 …
『源泉徴収なし』の場合
100万円 × 120% = 120万円
→ 120万円 × 120% = 144万円 …
もしもこのように利益を出し続けて年度末の確定申告までに売買を繰り返していけば、『源泉徴収あり』と『源泉徴収なし』での資金の差額は最終的には大きくひらいてくる。
■利益が20万円以上の場合は確定申告が必要
もしも利益が20万円を超過した場合は確定申告を自分で行わなければならない。
また世帯主ではなく誰かの扶養に入っている人は、一定額を超えると扶養から外れる場合がある。
■利益が20万円以下の場合でも住民税の申告は必要
利益が20万円以下の場合でも住民税の申告は必要となる。
「”源泉徴収なし”で20万円以下の利益だと確定申告不要」の落とし穴の落とし穴とも言えるが、「給与以外の20万円以下の所得の申告不要」とはあくまでも所得税に関してであり住民税については申告を行わなくてはならない。
申告先は各市町村窓口となる。
”源泉徴収あり”のメリット・デメリット
一方で『源泉徴収あり』のメリットとデメリットとはどのようなものがあるのだろうか?
■確定申告の必要が無い
取り引きの度に税金を自動的に支払ってくれるシステムなので、利益額がいくらになろうとも確定申告の必要が無い。
■利益が発生しても扶養から外れない
もしも主婦や学生で誰かの扶養に入っている場合、『源泉徴収あり』では税金が自動的に支払われ確定申告の必要が無いので、利益額がいくらになろうとも扶養から外れることは無い。
■利益が20万円以下の場合でも自動的に税金が徴収される
利益が20万円に満たない場合でも自動的に税金が支払われてしまうので、利益が少額の場合には税金の払い損となってしまう。
自分の投資スタイルに合った口座の選択を
『源泉徴収あり』にも『源泉徴収なし』にもそれぞれにメリットとデメリットが存在する。
少額投資者や初心者であまり利益が見込めない人、または配当金収益が主目的であまり売買取り引きを行わない人などは、『源泉徴収なし』を選択する方がメリットがあるのではないだろうか。
また『源泉徴収なし』で確定申告を自分で行う場合には、その際に自分の年収に応じて総合課税と申告分離課税を使い分けるのもよいだろう。